(資本主義市場経済と共産主義計画経済ついて)

需要と供給は貨幣における等価関係で成り立っているわけであるから、私のつたな
い知識ではどのような経済的システムが、より一層優れているのかを、どんなに努
力しても数学的に定量的に実証する事は出来ないと判断致しました。
これは多分経済の発展が人間へのインセンティブ(動機付け)という人間の心理に
深く係わっているためであると確信したからです。
したがって世界中の著名な経済学者も最良の経済システムはこれであると明示出来
ていない現実をみるとこれを数学的定量的に実証することは不可能なのだと確信す
るに至りました。
したがってこの問題は結局のところ、「需要側」「供給側」別にどのシステムがも
っとも人間のインセンティブを刺激し需要の質・量ならびに供給の質・量をより増
強できる要素を持ち且つ人間の社会生活の向上に寄与出来るのかの定性分析を行い
優劣を判定する以外方法は無いと判断しました。
そしてその分析結果を検証するためそれを疫学的手法つまり現実に表れている集団
現象や諸現象とりわけ国別の経済の発展状況を概観しシステムの優劣を判定しその
正しさを検証していく以外方法は無いと確信しました。
それでは人、設備、資本に変わりが無いのに何故経済システムの違いに依って経済
の発展や経済成長率に差が出てくるのでしょうか。
経済学では学派によって違いはありますが、理論的数学的分析を主眼とするため一
般に次の6点を与件つまり前提条件として分析対象からはずして分析せず、それ以
外の点につき経済分析や政策提言をすることになっているのです。
その分析対象から外している6点とは
1,人間の欲求(必要)
2,人口
3,自然条件または環境
4,技術的知識
5,蓄積された資本(設備その他)
6,法的社会的制度である。
したがって経済学は原則としてこの6点の与件を国ごとに「現状維持を前提」に研
究や分析対象からはずしているのです。
しかし私は現代の経済は経済学の帰結である「財政政策」や「金融政策」だけを駆
使するだけでは、効果が表れないほど複雑にしかもシステム的になっていると実感
しています。
つまり「現在の経済状況」は「過去に行われた経済政策の結果」であり、「望まし
い未来の経済状況を実現する」には企業経営者が立案する経営政策と同じようにフ
リーハンドで、「現在の与件(前提条件)として動かし難い物と観念されているも
のさえも分析し改善できる所を改善する提案」をすべきであると考えています。
それは経済に最も関係が深いと定義されている与件(前提条件)を改善することこ
そがが最も経済効果が高いからであります。
本書は与件とされる1.と6.について徹底的に分析し改善提案しているわけであ
りますが、今後は誰かが具体的で効果のある2.の日本の人口増加率の回復策につ
いて提言してくれることを希望しています。
もちろん3.4.5.についても同様なのです。
したがって本書では税システムを中心に経済学的与件と考えられている「人間の欲
求」や「法的社会的組識」が決して与件として分析対象から外すのではなく、逆に
その改善こそが経済発展の原動力となっており、「人間の幸福のためにどう政策的
にアプローチすべきなのか」を基準にこれらを分析対象に加え、その結果に基づき
政策を立案するべきとの考えで本書をまとめたわけであります。
つまり分析対象を純数値的理論性や学問性にこだわらず「実際に人間にとって役に
立つ改善すべき問題を既成概念や固定観念を廃し探し出す手段として」拡大すべき
だと考えたわけであります。
つまり戦闘用語で言えば「索敵範囲の拡大と索敵能力の強化」であります。
とりわけ法的社会的制度については特に経済に深い影響を及ぼす税システムを中心
に考えることとしました。
もちろん他の与件も決して与件と考えることなく分析対象にするべきと考えていま
すが、私の知識はつたなく、本書では前記2点に絞って論点を述べているわけであ
ります。
経済は需要と供給、家計と企業、価格と所得並びに科学技術の発展などによって構
成されそれがシステム的に有機的に人間社会において絡み合って発展してきている
のであります。
この中で人間社会を維持していくには、「国」(もちろん地方公共団体も含めて)
という制度が必要になります。
ここにこれを維持するための家計や企業が負担する「重い税」は避けて通れない問
題であり、税は重いゆえに経済的に良くも悪くも強いインセンティブ(動機付け)
になりうる性格を有していることに着目して、本書では「人間の経済活動の良循環
に寄与する税制システム」を目指して経済の現場を検討していきたいと考えていま
す。

さて計画経済システムつまり計画経済とは一国の財、サービスの生産・流通・分配
が国家の一握りの超エリートによって事前に決定された方式にしたがって行われる
システムを言い、共産党政権の旧ソ連などがその代表例である。
計画経済システムそのものが進化論の要素である「選択と淘汰の要素」がシステム
内に存在しないため進化システムとして機能しないことが自由主義的資本主義市場
経済との大きな差であった。
需要側から見れば提供される財やサービスはエリート達の計画に基づく供給品以外
選択の余地は無く競争が存在しない以上消費者の選択が増強される要素はなかった。
しかし配給制度により最低限の分配は順調に機能していたようであるがそれ以上の
消費市場は決して育たなかった。
このシステムの最大の欠点は進化システム上の外部競争方式も内部競争方式も導入
されずエリートの意志だけが優先され行列が出来るのは当たり前であり供給力にこ
そ大問題があったようである。
つまり協同意識はあったにしろ、エリートの指令が絶対で競争概念の取り入れが無
かったので消費者や労働者個人の意志に基づく選択・淘汰が働かず悪い商品や悪い
生産現場がすべて生き残ってしまった。
つまり生産現場に供給力の質・量ともに経営自主権の選択権が無くつまり指令のま
まに生産するだけで自主性やフリーハンドの真の競争が無くそのために生産設備や
生産技術や経営管理能力の現場での不断の改善努力が為し得ない進化システムを否
定するシステムになっていたからであります。
このシステムはソ連および東欧諸国の崩壊により、ヨーロッパでは全て淘汰されて
しまった。

つぎに間接税重視型(消費規制型)資本主義市場経済はヨーロッパが中心の経済体
制であり平成元年消費税を導入した日本もこの形式の仲間入りをしたのであります。
この形式の経済は市場経済という進化システムは備えているが、経済の進化の源泉
となる個人消費を間接税で規制する強い総需要抑制効果を持っているため進化の速
度が供給側ばかりが早く、需要側が遅くなるため必然的に大規模な失業を発生させ
る経済であり貧富の格差も広がる経済体質であります。
利他的結果をもたらす消費を規制し、利己的結果をもたらす所得の規制を緩和する
以上当然の結果なのです。

直接税重視型(所得規制型)資本主義市場経済は正にアメリカがその代表格であり
ます。
もちろん平成元年までの日本はアメリカより更に進んだこの形式の経済体制を取っ
ていました。  だからこそ当時アメリカを追い抜き世界一の経済大国と称せられ
るようになったのです。
特に平成元年の消費税導入までは消費規制は個別的限定的であり更に日本は所得税
の高累進率のため貧富の格差が広がらず、進化システムも順調に働いていたため需
要も供給もシンクロナイズしながら国民一人あ当たり額が増加し、それに合わせて
個人所得も順調に増加したものです。

ただ株や土地投機の資産インフレに対する金融政策の放置や資産インフレに対する
相続税制が放置されたため、バブルが発生し経済に行きすぎが生じてしまった。



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