(システムの指導原理と国家目標の重要性)

まず国家の経済運営の指標は憲法で明確に指摘されているように国民である人間に
とって重要な指標であるので、アメリカの国家目標と同じく、結果としての「失業
率の低さ」と「その反対目標であるインフレ率の低さ」を最重要視し、経済成長率
は、それらを達成する手段と位置づける立場をとるものであります。
したがって国家国家によって置かれている現状や国家経済の発展状況などで経済成
長率には相違があるので、あくまでもその国の経済運営の良否は「失業率の低さ」
と「インフレ率の低さ」で絶対的な評価判断をすることとします。
そしてもう一つ重要な指標としては国家民族の存続のための「合計特殊出生率が2
.0−2.1」(多すぎても少なすぎてもダメ)を維持出来ているかどうかが長期
重要指標となります。
現在の日本の不況は若年労働者を直撃しており、学校を出て社会人になる第一歩で
多くの若者が挫折しており、社会に出て一番大切な3−5年間の最も人間として鍛
えられ、揉まれ教育されなければならない時期に職場にも先輩にも上司にも良い友
人にも恵まれるチャンスの少なさには暗澹たる気持ちになります。
さらにこの若年労働者の失業率の高さが合計特殊出生率の低下を更に促進するので
はないかと憂慮しているのです。
既に発表されている合計特殊出生率から見ると今のままでは先進諸国のうち、日、
独、伊(旧三国同盟国)は100年以内に人口が半分程度になり衰退の一途を辿り、
英はその後を追い、一人確かな政策を続けているアメリカはこれからの100年間
も現状の人口を維持し超大国で君臨することが明らかなのです。
この日独伊の三国は第二次世界大戦の同盟国であり共に協力して米英と戦った優秀
な国家であり仲間であったが自己批判すると、共に自国のエリートとマスコミが具
体底のない言葉の羅列によるコンセプトに片寄った呪縛をされ、つまり自分自身に
よって自己洗脳され理念に基づく演繹的な硬い考え方に凝り固まるという類似の気
質を有しているのが現在でも継続している恐れがありそれがこの原因ではないかと
考えています。
そして根本には、この三国は真実や事実を公にするよりも組織や規律、秩序などの
「理念」を重視するエリート主導の気風が残り、「事実」をもとに個人の個別の意
志の総和を重視する英米の考え方と大きく異なるのです。
これは論理の進め方が「既知の諸原理に基づき論理を構成する硬い考え方」つまり
「理念理想に基づき演繹的な論理構成する」人々(理性論・合理論)と「既知、未
知を問わず個別的な諸事実に基づき論理を構成する軟らかい考え方」つまり「事実
に基づき帰納的に論理構成する」人々(経験論)との気質の対立であるとW.ジェ
ームズは述べていることと合致していると感じています。
私は諸原理とは「既知の原則的で一般的な概念・コンセプト」であり、諸事実とは
「既知、未知を問わず現実に発生している個別的な事実」なのです。
ヨーロッパ大陸的理性論、合理論哲学を色濃く持つ日本では、エリートとマスコミ
が持論の理念理想を展開することに熱心であり、本来はその前に真実や事実を徹底
して追求した上で多方面からの考え方や意見を明らかにしタブー無しに善悪、適不
適を勇気を持って国民大衆に判断させ、それを尊重する気風が育っておらず、した
がって米英的経験論哲学の実証的で常識的な行動を取る気風が育っていないため、
頭の中で考えている理念や理想の議論に時間を費やし多くの個別の問題が論争にも
ならず徹底した原因の分析もしないまま放っておく体制が出来てしまっていると考
えています。
さて本書では何故に我が国が昭和20年の敗戦での焼け野原状態からわずか43年
後の昭和63年にはアメリカを追い抜き世界一の経済大国と称せられるようになっ
たのか、そしてその後またわずか10年間で何故アメリカに大きく追い抜かれたの
か。
また380年前に102名のイギリスから出発したメイフラワー号のピューリタン
(清教徒)がアメリカに上陸した後、紆余曲折を重ね224年前に独立宣言した遠
心力の働く多人種、多文化、多言語で地方分権の移民国家という非効率の典型国家
である新興国のアメリカが何故独立後わずかな短期間(江戸時代より短い期間)の
現代までに人口二億五千万人の国民に人口が増加し更にそれらの国民全てに職を与
え、養い世界一の超大国になりえたかそれを解明しないのか非常に不思議に感じて
いるのであります。
そしてアメリカ発展の秘密は進化論に基づく現代の最先端のシステム工学を良く理
解し人工システム(制度、法律、基準など)に「進化システムを基本に忠実に導入
し国家の運営に生かしている」「経済学の真の本質を良く理解し進化システムを尊
重している」と言う二点に収斂するのであります。
次に人間は消費を所得に変換して生活しているのであると言う根本的な経済原理と
科学技術の進歩に基づき時代と共に供給力が増大し同時に束縛しなければ人間の本
能から消費は自己決定性を持ちながら自己回帰的に増加し、この増大する供給力を
吸収するのであるという根本的な経済の原理原則を理解していることが大切であり
ます。

そして経済発展と成長が文化の良い方向への過剰性の拡大に依拠しており、経済成
長を達成するには消費を規制しないと言う基本に忠実に運営されているかどうかに
かかっていたことを、発見し、分析し、解説し、更にその消費の過剰性を良い方向
性へ向かわせる今後の改善策を提案しているのが本書であります。
したがって経済発展には鶏(消費)が先か卵(所得)が先かの議論は全く不要であ
り、繁殖条件、自己回帰的増加条件だけが必要なのであります。

つまり経済発展に必要なものは需要側では潜在需要(顕在需要ではない)であり、
供給側では潜在供給力(顕在供給力ではない)なのであり、それを良い方向へどう
やってこの潜在需要と潜在供給力を抵抗感無く顕在化して引き出していくかという
一点に重点を置くところに民主経済国家の役割があるのです。

そして経済成長の根本要因は人間の本能に基づく「自己回帰的な経済の出発点であ
る個人消費の自然増だけであり」「これが減少すれば経済の全分野に渡り所得が減
少するのであり」、「だからこそ消費の規制は経済成長に極めて悪影響があり」消
費を所得へ変換して生活している人間の経済活動においては他の人から稼得する性
格の「個人所得は自己回帰的な増加など不可能であり」「自己がその所得の一部を
稼得しなければ、その残余の分は他の人間が稼得する性格があり」「だからこそ所
得の規制は経済成長には悪影響のない存在」であるという根本的な法則を理解しな
ければならないのです。


さて成熟経済が発展して行くには、システム工学上で各々人工進化システムとして
実証されている民主主義(主として政策決定ルールの分析)、市場経済(主として
需要側の分析)、科学技術(主として供給側の分析)の本質を分析し、それがスム
ースに機能しているかどうか、日本の構造がそれに当てはまっていない不完全な部
分があるために日本が不況から抜け出せないのではないかという「基本命題」を持
ちながら日本経済を分析し、それに基づき未来の良き日本を建設するべく提案した
ものであります。
本書でも良く活用している日立デジタル平凡社の世界大百科事典から引用すると人
工システム(法律・制度など)開発上のシステム作成の指導的原理は以下の5点で
あります。

1.初期目的の達成  2.社会的受容性 3.環境変化への適応性 
4.機能性能の拡張性と柔軟性  5.経済性と信頼性

そこで国は膨大な数の国民に適用する一つのシステム(法律、制度、基準など)を
作り上げた場合又は作り上げる計画がある場合ここに述べた「システム作成の指導
原理一点一点」について「条件を満たしているか」を常時チェックし評価し反省し
改善し新たに予測しなければなりません。
さらに現代において最も注目されているものに人間社会生活にとって真に役に立つ
「進化システム」があります。
この進化システムには自然生物を作り上げた「自然システム」ばかりではなく、人
間が人工的に作り上げた「人工システム(法律、制度、基準など)」にも原理原則
さえ厳格に守れば多くの大規模な成功例があり社会の発展進化に極めてすばらしい
成果を提供しているのです。

(進化システム例) <―――――> (非進化システム例)
  1.市場経済           1.計画経済
  2.大衆主導の民主主義国家    2.真の全体主義・真の共産主義
                     (いずれも究極の官僚統制国家)
  3.科学技術           3.事実と遊離した理念・論理・迷信
  4.インターネット        4.管理主体がある商用情報システム

進化システムの厳格に守るべき原理原則としては
1.進化システムは目的(特定の政策や観念など)を持たず、進化の「過程つまり
ルール」だけを持つ。
したがって人により作られたシステムにもかかわらず、特定の個人やエリートと言
えども直接制御出来ないし、してはいけない構造を持つ。 (つまりスポーツやゲ
ームのルールと同じ)
2.進化は変異が起こり、変異が競争に参入し「結果」として進化が起こる。
(つまり「結果が真に良ければ」すべて良しなのです。)(また変異とは積極的に
試行錯誤を行って改善し環境に適応するかどうかを確かめるという哲学的意味が含
まれています。)
3.外部環境内部状態の変化に対してシステム全体として柔軟に適応し頑健である。
4.システムの一部が競争による淘汰圧力からはずれたときその部分は爆発的に増
殖する。
5.分化と系統が発生する。
つまり進化システムとは人間環境に対して良く適応する判断をどう次々と発見する
かの手続きのルールを定めたものとして考えられたものであり、一つが外部競争方
式であり、もう一つが内部競争方式なのであります。
そして人工システムは「進化システムであるときに限ってシステムとして強力に発
展する」特徴を有しているのであります。
進化システムは時間が掛かっても必ず非進化システムに勝利してゆくのです。
さて進化システムにおけるキィーワードは「競争」であります。
しかしながら競争と正反対の概念の「協同」と言う概念を、どのように理解するか
が重要なポイントなのであります。
「協同」という概念は「競争」という概念の正反対であるゆえに広義において進化
システムにおける競争概念の一部と判断しています。
気を付けなければならないのは、国の最高の目標は「国民全員の幸福の追求という
不可能と思われる目的への挑戦であり、これを達成するためには自然システムにお
ける人間が持つ二つの本能つまり種(人類全体)の保存本能から生ずる利他的意識
を基本とする協同体意識と、本人自身の生存本能から生ずる利己的意識を基本とす
る競争意識の同時存在(人間の本能)こそがこれを達成するための重要な手段なの
であります。」
つまり人間は「競争意識・利己的意識・営利精神」と「協同意識・利他的意識・ボ
ランティア精神」を本能的に同時に持っており本書では密接不可分なものとして理
解する調和のとれた競争を提案しているのであります。
そして人間は「消費者」(需要)であると同時に「労働者」(供給)であり、「国
家運営の費用の負担者」であると共に「国家政策の受益者」であるという二面性を
持ち、この場面場面により正反対の経済的行動をする自己回帰的な存在として把握
するものとします。
そして人工的進化システムの競争には人間は組織を作って行動する以上「主として
民間の組織同士の競争」(外部競争方式)と「国などの独占組織の組織内部の競争」
(内部競争方式)の2つの競争が存在し、その効力は外部競争方式の方が内部競争
方式より強力に作用し、両方の競争条件を同時に保有した時が最も早い進化スピー
ドをもたらすのです。
そして競争に必要な条件としては「自由(フェアーな)」と「平等(対等な)」の
正しい定義が厳格に守らなければ適正な競争による「進化は実現出来ない」ことを
理解して頂きたいのです。

さて経済は早いスーピドで進行しており、その時点その時点の静態的な経済を分析
するより、等速度または等加速度で拡大する動態的な経済のシステムや実像を把握
する方が遙かに有益と考えております。
そこで単純な人間社会の原則が幾重にも重なり合っているために、複雑になり見え
にくい経済の本質を解き明かすため本書を著した訳でありますが、そのために長文
の書物になってしまいました。
本書は人間の文化と経済の歴史が進化と進歩の歴史であるところから、その根本思
想を進化論と経済学原理に置き、どのような状態の時に進化と進歩が最も良く働く
かに力点をおいて論じてみました。
そして我々国民は人間という動物の一種である以上生まれてから成人するまでの間、
どのような教育を受けるのが調和のとれた社会の進歩と進化に必要なのかも示した
いと思っています。
そこで以上の基本原則を踏まえつつ筆者の詳細な問題提起を要約し、お忙しい読者
がわずかな時間でご理解頂けるよう努力いたしました。
まず本文をご覧に頂き直感的に全てにご理解頂ければ有り難く、さらにご興味を持
っていただければ、詳しく全文を読み通していただければ有難いと考えております。



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